金曜相続劇場 第1章 青山華子さんのケース「几帳面な夫が残したもの」
- 稲場 晃美
- 4月24日
- 読了時間: 4分

第5話 華子さんが動き出した日
前回のあらすじ:夫の書きかけの遺言書を見つけた華子さん。「お父さんが伝えきれなかった続きを、私が書く」と決意し、南青山の事務所を訪ねることにした。
「何かしなきゃと思って来たんですけど、何をすればいいのかわからなくて」
華子さんはそう言いながら、バッグから古い封筒を取り出した。夫の書きかけの手紙だった。
てるみんはそれをそっと受け取り、黙って読んだ。
「几帳面な方だったんですね」
華子さんが「そうなんです」と小さく笑った。でもすぐに表情が曇った。「書きかけのまま逝ってしまって。私が続きをやらないといけないと思うんですけど、どこから手をつければいいのか」
「まず、一つだけ聞かせてください」
もし何もしなかったら、どうなりますか
てるみんが静かに言った。
「もし華子さんが何もしなかったら、どうなると思いますか」
華子さんは黙った。
「美咲さんは、健一さんに対して自分の気持ちをちゃんと主張できると思いますか。5年間介護してきた想いを、お兄さんに正面から言えると思いますか」
華子さんの手が、膝の上でゆっくり握られた。
「大切な資産をめぐって、お二人が争うことになっても——華子さんは大丈夫ですか」
しばらく沈黙が続いた。
「……大丈夫じゃないです」
華子さんがそう言った。「あの二人に、そんな思いはさせたくない」
「そうですよね」
てるみんが頷いた。「だったら、一緒に考えましょう」
遺言書は、書けばいいというものではない
てるみんは、まず全体像を整理して見せた。
相続には期限がある。手続きには順番がある。司法書士、税理士——それぞれの専門家が担う役割がある。華子さんが「何をすればいいかわからない」と感じていたのは当然で、全体の地図がなければ最初の一歩が踏み出せない。
「遺言書についてですが、書けばいいというものでもないんです」
てるみんが続けた。「遺言書にはいくつか種類があります。その中でも私が公正証書遺言をお勧めする一番の理由は、このマンションを誰に残したいか、華子さん自身の意思を確実な形にできるからです。自分の財産の行方を、自分で決められる。それが遺言書の本質で、公正証書はその中で最も信頼できる形なんです」
華子さんが静かに頷いた。
お母さんは、お子様たちになんて声をかけてあげたいですか
一通り話し終えた頃、てるみんが静かに聞いた。
「一つだけ教えてください」
「はい」
「華子さんは——お子様たちに、なんて声をかけてあげたいですか」
華子さんは少し驚いた顔をした。財産の話でも、手続きの話でもなかった。
しばらく、窓の外を見ていた。
「美咲には、ありがとうって言いたいです。ちゃんと気づいていたよって。健一には……美咲と仲良くね、頼むよって」
「それが、付言事項になります」
てるみんが言った。「華子さんの気持ちを、ちゃんと有効な形で残せます。お父さんが書ききれなかった続きを、今度は華子さんが書く番です」
華子さんが、ゆっくりと頷いた。
華子さんが動き出した日
「個別サポートという形で、司法書士・税理士と連携しながら伴走させていただきます。一緒にやりましょう」
てるみんがそう言うと、華子さんは少し考えてから答えた。
「お願いします」
窓の外では、南青山の街が静かに午後の光を受けていた。
華子さんが動き出した日。それは、几帳面な夫が書きかけたまま止まっていたペンを、華子さんが静かに受け取った日でもあった。
てるみんからひとこと
このようなケースは、実際の相談現場でもよく見かけます。
「遺言書なんて大げさ、うちは関係ない」——そう思っている方にこそ知ってほしいデータがあります。令和6年の司法統計によると、家庭裁判所で争いになった相続案件の約76%は遺産額5,000万円以下の家庭です。相続争いは、お金持ちだけの話ではありません。
遺言書には種類があります。その中でも公正証書遺言をお勧めする一番の理由は、自分の財産の行方を自分で決められること。このマンションを誰に残したいか、華子さん自身の意思を確実な形にできること。公証人という専門家が関与するため、法的な有効性も高い。
そして何より、付言事項として家族へのメッセージを添えられること。「ありがとう」「仲良くね」「頼むよ」——その言葉が、残された家族の相続をやわらかくします。
元気なうちにしか、自分で選べません。まずは現状を整理するところから。無料相続診断、お気軽にどうぞ。
シリーズ完結によせて
青山華子さんのケース、全5話をお読みいただきありがとうございました。
登場人物はフィクションですが、描いた問題はすべて実際の相談現場で見てきたことです。「うちも同じかも」と感じた方は、ぜひ一度、無料相続診断を受けてみてください。
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