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火曜人生劇場|川崎洋子さんの終の棲家探し

リビングルーム
リビングルーム

第2話:夫はLDKを知らない

画面の向こうに、てるみんの顔が映った。

「川崎さん、今日はご主人もご一緒なんですね。はじめまして」

ジョンが少し前のめりになって、カメラに向かった。

「Hi, I'm John. Nice to meet you.」

AIの同時通訳が、ジョンの言葉を日本語に変えた。洋子は少し笑った。こんな形で相談が始まるとは、半年前には想像もしていなかった。

「では早速、いくつか気になる物件を見ていきましょうか」

てるみんが画面に資料を共有した瞬間、ジョンの表情が変わった。

2LDKって何だ

「ちょっと待ってくれ」

ジョンがラップトップを指差した。

「この『2LDK』というのは何だ?ベッドルームが2つということか?それともリビングが2つあるのか?」

洋子は説明しようとした。LはリビングでDはダイニングでKはキッチンで——でも口に出してみると、自分でもうまく説明できないことに気がついた。リビングとダイニングは別の部屋なのか、一緒の部屋なのか。キッチンはどこからどこまでがキッチンなのか。

「つまり、リビングとダイニングとキッチンが一体になったスペースに、ベッドルームが2つついている、ということ?」

「……そう、かな」

「なぜそれを『2LDK』という記号で表すんだ。2 Bedrooms / 1 Living-Dining-Kitchenと書けばいいじゃないか」

てるみんが静かに笑いをこらえているのが、洋子にはわかった。

疑問が止まらない

間取り図を見ながら、ジョンの疑問は止まらなかった。

「バスルームが1つしかない。しかもシャワールームにトイレがついていない?」

洋子が「トイレは別の部屋なの」と説明すると、ジョンは首を傾けた。

「なぜ隔離されているんだ。アメリカでは全部一緒の部屋だ。手を洗うためにわざわざ別のドアを開けるのか?」

「でも日本では3点独立って言って、むしろ高級な設備なのよ」

「3点独立……」ジョンはその言葉を繰り返した。「つまりトイレ・バス・洗面所が全部別々の部屋ということか。それが豪華なのか」

納得はしていない顔だった。

次に目に止まったのはキッチンだった。

「オーブンはどこだ?」

「日本にはオーブンレンジはあるけど、ビルトインオーブンはないのよ」

「では何でピザを焼く」

「この引き出し、魚焼きグリルがあるから——」

「この小さな引き出しで?」ジョンは画面に顔を近づけた。「本当にこれで焼くのか」

「魚を焼くものだから——」

「魚専用のオーブンがあるのか」

洋子はもう笑いをこらえるのをやめた。

「クローゼットもずいぶん小さいな」とジョンは続けた。「ロンドンからシンガポールまで持ち歩いてきたキャンプ道具はどこに入れるんだ。まさか外か」

「収納は工夫するものなの」

「工夫ではなくWalk-in closetが必要だ」

その光は何sq ftなんだ

しばらくして、ジョンはラップトップで何かを調べ始めた。

「1帖が何sq ftか計算してみた。約1.65平方メートル、つまり17.76 square feetだ。しかしこれ、地域によってサイズが違うと書いてある。京間と江戸間で異なるとは——」

「そうなのよ」

「規格化されていないのか」ジョンの眉間にわずかに皺が寄った。「単位というのは世界共通であるべきだ」

一方で洋子は、さっきから別の物件が気になっていた。資料には大した情報がない。でも写真に映った窓からの光が、なんとなく好きだった。

「ねえ、この部屋、なんかいいと思わない?」

「どれだ」とジョンが画面を見た。「何平米だ?築何年だ?管理費は?」

「そういうんじゃなくて、なんか、窓からの光が好きな感じ」

ジョンは少し黙った。

「その光は何sq ftなんだ」

洋子は笑い出した。止まらなかった。

価値観の通訳

てるみんが静かに口を開いた。

「お二人を見ていて、とてもよくわかりました」

ジョンの同時通訳が動いた。

「住まい選びって、数字で測れるものと、測れないものがあるんですよね。ジョンさんは測れるものをきちんと把握したい。洋子さんは測れないものを大切にしたい。どちらも正しいんです。まずそこを整理するところから始めましょうか」

ジョンがてるみんの言葉を聞いて、少し表情が和らいだ。

「それは——合理的だ」

洋子はまた、小さく笑った。


てるみんからひとこと

ご夫婦で住まいを選ぶとき、価値観がぶつかることはよくあります。どちらが正しいのではなく、何を大切にして選ぶかを整理することが大切です。

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次回 第3話:「駅から5分」が夫に刺さらない理由 候補エリアを絞り始めたとき、洋子とジョンの「理想の場所」がまったく違うことがわかった。


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