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火曜人生劇場|川崎洋子さんの終の棲家探し

空港
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第1話:夫の国を出て、日本へ帰ろう

洋子がその言葉を口にしたのは、夕食のあとだった。

「ねえ、日本に帰りたいんだけど」

夫のジョンは、ソファでノートパソコンを開いていた。画面から目を上げて、少しだけ洋子を見た。怒りも驚きもない顔で、ただ一言。

「How long have you been thinking about it?」

どのくらい前から考えてたの?

「ずっとかな」と洋子は答えた。「でもはっきり思ったのは、最近」

ジョンはパソコンをそっと閉じた。


世界を転々とした40年

洋子が神奈川県川崎市で生まれ育ったことは、もはや遠い話のように感じる。26歳のとき、ITエンジニアとして働いていたジョンと出会い、結婚した。それから40年近く、二人はジョンの意志とともに世界を転々とした。

ジョンは会社に言われて動く人ではなかった。「ロンドンのポジションに興味がある」「シンガポールのチームと仕事したい」——自分でチャンスを見つけ、手を挙げ、家族ごと移っていく。そのたびに洋子はスーツケースを引っ張って、新しい街の空気を吸った。

ロンドンでは霧の中を自転車で通勤した。パリでは市場でフランス語を覚えた。イタリアでは下手なイタリア語でご近所づきあいをして、笑われながら仲良くなった。シンガポールでは息子たちが現地の学校に通い、英語が母国語のようになっていった。

そしてリモートワークが当たり前になったころ、二人はアメリカに落ち着いた。息子たちはとっくに独立して、それぞれの人生を歩いている。静かで、穏やかで、不満のない毎日。

でも65歳になったとき、洋子は初めてはっきりと思った。

「このまま、ここで老いていくんだろうか」


胸の奥で、日本が呼んでいた

不満があるわけじゃない。ジョンはやさしいし、生活も安定している。ただ、何かが少しずつ、ずれてきた気がしていた。

スーパーで英語を話すことが、以前より少し疲れる。かかりつけの医者に「なんとなく体がだるい」をうまく説明できないとき、もどかしさで胸がいっぱいになる。街を歩いていても、空気の匂いが、自分の体に馴染まない感じがする。

東京に、長年の友人が何人かいる。帰国するたびに会う仲間たち。一緒にお茶を飲んで、とりとめもない話をして、笑って別れる。その時間がたまらなく好きだった。

「会いたい」じゃなくて、「そばにいたい」と思うようになったのは、いつからだろう。

洋子は感性で生きてきた人間だ。データより空気、スペックより雰囲気。街を歩いて「ここ好きかも」と思えるかどうかが、全てだった。そしてその感性が、静かに、でもはっきりと言っていた。

日本に、帰りたい。


数字で考える夫の返答

「俺も日本は嫌いじゃない」とジョンは言った。「ただ、家を買うとなったら——」

彼はモバイルを取り出して、日本の不動産情報サイトを開いた。

「洋子から帰りたいって聞いてから、ちょっと覗いてみたんだが」

画面には日本語がびっしり並んでいる。

「写真を見てもどのくらいの広さなのかイメージできない。数字はあるんだが、sq ftじゃないから体感がわからないんだ。数字が読めないと判断できない」

そこだ、と洋子は思った。ジョンはいつもそうだ。何事もまず数字。感覚より根拠、雰囲気よりデータ。自分で調べているあたりはさすがだけれど、帖もLDKも、説明するところから始めなければならない。

「私、詳しい人に相談してみる」

「Good idea」とジョンは言った。「できれば英語で話せるといいんだけど」


てるみんへの問い合わせ

知人から名前を教えてもらったのは、その翌週だった。

「てるみんさんっていう方がいてね。お母さんがカリフォルニア育ちの日系3世で、おじいさんはハワイ生まれのハワイアン。だから外国人の感覚がわかる人なのよ」

日本にいる親戚からそう聞いた。英語は話せないけれど、異文化への理解が染みついている人、という言葉が妙に響いた。洋子は迷わずメッセージを送った。

「夫がアメリカ人で、日本語が話せません。一緒に相談に参加させることはできますか?」

返信はすぐに来た。

「もちろんです。私、AIをフル活用して働いているので、言葉の壁はなんとかなります。オンラインでご一緒にお話しましょう」

洋子は思わず笑った。

なんとかなる、か。久しぶりに聞いた言葉だった。


てるみんからひとこと

このようなケースは、実際の相談現場でもよく見かけます。

海外からのメールでのご相談は普段からお受けしています。言葉の壁はAIを駆使して乗り越えながら、しっかりコミュニケーションをとっています。オンラインでの面談ももちろん歓迎です。実際に海外にお住まいの外国の方からお声がけいただくこともあります。

「海外にいるから無理かな」と思わず、まずはご連絡ください。



次回 第2話:夫はLDKを知らない 初めての物件資料を前に、ジョンが放った一言。「これ、何平米?」——単位の壁は、価値観の壁だった。


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